はじめに
第1話では「カテゴリ」という単位そのものについて考えました。今回は調達・購買の担当者が必ず通る道である「カテゴリマネジメント」について私の考えを共有したいと思います。
一般的なカテゴリマネジメントの手法については、CIPS(Chartered Institute of Procurement & Supply)などの解説をご覧いただければと思いますが、分析、戦略策定、施策実行、レビューというPDCAサイクルで整理されているものが多く、体系立てて理解することが可能です。このコラムでは、その一般論をなぞるのではなく、私が実務の中で組み立ててきた目線などを織り交ぜながら、私が考えるカテゴリマネジメントを共有したいと思います。
3つの前提軸
私の考え方の土台には、次の3つの前提があります。この前提があることをベースにコラムを記載させていただきます。
- ビジネス(売買)は、需要と供給のバランスから成り立つということ
- 経営資源は有限であり、高インパクトのものにリソースを投下しなければならないということ
- 調達・購買は、複数のビジネス機能のバランスを取る「バランサー/司令塔」であるということ
3点目は少し補足を行います。調達品の品質を求めると当然高品質のモノ・サービスを調達できます。一方、その分リードタイムやコストが嵩むことになります。QCDS(Quality, Cost, Delivery, Service/ Speed)や、サプライヤとの経営的なビジネス観点、代替品の発掘能力など、調達・購買部門は、企業の部門横断で最適化を行う必要があります。また、特に直接材や設備購買などでは、製品の開発段階から関与し、製品のライフサイクルに合わせて、終売まで需要の波をコントロールする時間軸的な前後のマネジメント能力も必要となります。従って、調達・購買担当者(カテゴリマネジャー)は、自社の幅広い部門に面的に関与し、ファシリテーションを行える能力が必要ということになります。当然、製品の技術的知識や、サプライヤの製造工程などについてもある程度の知見レベルで精通している必要があります。
カテゴリマネジメントは、カテゴリ戦略とカテゴリオペレーション
次に、カテゴリマネジメントを少し分解したいと思います。「カテゴリマネジメント」は、「カテゴリ戦略」と「カテゴリオペレーション(実行)」の2つから成り立つものだと考えています。「カテゴリ戦略」を策定し、その「カテゴリ戦略」を実行するという順序になります。前出の一般論的なカテゴリマネジメントがPDCAとして記載されていることがあると申し上げましたが、戦略と実行の往復がPDCAサイクルとなると考えると整合します。このコラムでは、「カテゴリ戦略」について主に取り上げたいと思います。
需要分析
前出の「ビジネスは需要と供給のバランスから成り立つ」という観点から、まず需要分析を行い、自社がどれくらいの物量を購買するのかを把握します。
基本になるのは、過去のスペンド分析(支出分析)です。できれば単年ではなく経年で見る方が望ましいです。一般的にパレートの法則に従うと、上位20%カテゴリ/アイテムに着目すれば、スペンドの8割をカバーしますので、上位20%に絞り込み、分析を行えばよいです。経営資源が有限である以上、全カテゴリ/アイテムを分析しようとせず、高インパクト品に集中する方が望ましいです。
過去のスペンド分析の次に、将来の需要を把握します。①過去のスペンドトレンドから自社の事業戦略/事業計画のトレンド補正を掛けて将来需要と推測する方法が一般的かと思いますが、直接的に②当該製品やサービスを購買している部門の予算情報を共有してもらい、購買計画を把握する方法もあります。直接材であれば、自社製品の動向を見ながら、営業部隊の販売計画(予算)を入手し、フォーキャスティングを行うのが一般的です。ただし、精度の問題は常に付きまといます。営業計画がいわゆる「ガッツ」的に過大設定されていたり、売れ行き好調で嬉しい悲鳴の時などです。季節性(シーズナリティ)のある製品の場合の季節性需要がある場合には難易度が上がります。営業部隊は、生産や調達を自動販売機のように「欲しい時に欲しいだけ出てくるもの」だと捉えていることがあり、調達側が抱えるボトルネックを意識しないまま計画を立ててしまうケースも見うけられます。
ただ、この段階では、カテゴリ戦略策定の需要分析なので、サプライヤへ提示する数字でもなく、今後、新製品が発売されるため新しいアイテムの調達が必要、代替品に置き換わる、終売を迎えて調達しなくなるなどの大きな変化に漏れがなければ問題ないと言えます。
市場分析
供給側分析つまり市場分析に移行します。市場分析は突き詰めると際限なく緻密に分析することが可能な性質がありますので、詳細を追い求めずにマクロ的に見ていくことがカテゴリ戦略策定時には有効と考えます。例えば、取引先サプライヤの財務状況などを分析し、取引先の健全性を評価することも可能ですが、前出の通り、経営資源は有限でありますので、全取引先/全業界に対して詳細分析を行っていくことは現実的ではありません。私の場合、「顧客の数×サプライヤの数」という単純なマトリックスで当該調達品のマーケットの特性を把握し、売り手(サプライヤ)と買い手(自社)の力関係を簡易的に把握することとしています(図1)。

- A象限(顧客数少×サプライヤ数少):共同開発品やライセンス契約など、双方が限定された相手としか組めない関係性の強い領域。事例として、航空機(ボーイング、エアバス)とエンジンメーカー(GE、Pratt & Whitney、Rolls-Royce)があります。
- B象限(顧客数少×サプライヤ数多):買い手側が優位に立てる領域です。広告代理店やWeb制作会社などが事例で、大手企業から中小企業、フリーランスまで様々な規模のプレーヤーが存在し、用途による使い分けやコンペが有効な領域となります。
- C象限(顧客数多×サプライヤ数多):いわゆるジェネリックマーケットと言われ、供給不足は想定しにくい領域です。市場価格が存在するため、コンペや個別交渉に力を入れるより、カタログ化など購入プロセスをシンプル化する方が効果的な領域となります。
- D象限(顧客数多×サプライヤ数少):いわゆる寡占状態で、価格が高止まりしやすい領域。携帯電話やIT、ライセンス費用などが典型例です。政府が通信料金の引き下げに介入した事例も、この象限では価格競争が働きにくいためと考えられます。
買い手側の戦略としては、B象限が最も有利な領域であるので、B象限で取引を行いたいと思うわけですが、売り手側の戦略としては、D象限が最も有利(いわゆるブルーオーシャン)であり、D象限を目指すことになります。
市場分析をもう一段掘り下げてみます。元マッキンゼー・デュッセルドルフ支社ディレクターのPeter Kraljic氏が提唱したKraljicマトリックスという手法があります。横軸に供給リスクや複雑性(Supply Risk / Complexity)、縦軸に利益インパクト(Profit Impact)を取り、4象限分割を行う手法です。
- 第Ⅰ象限(利益インパクト高・供給リスク高):戦略品目(Strategic)
- 第Ⅱ象限(利益インパクト高・供給リスク低):レバレッジ品目(Leverage)
- 第Ⅲ象限(利益インパクト低・供給リスク低):非重要品目(Non-Critical)
- 第Ⅳ象限(利益インパクト低・供給リスク高):ボトルネック品目(Bottleneck)
「供給リスク」と「利益インパクト」という言葉は少し馴染みが薄い言葉になりますので、私は、「供給リスク」→「サプライヤパワー」、「利益インパクト」→「調達金額(スペンド/支出)」と読み替えて使っています(図2)。サプライヤパワーは文字通り、サプライヤの強さです。例えば1社供給状態(モノポリー)や寡占状態(オリゴポリー)の場合は、サプライヤパワーは「強い」ということになります。調達金額(スペンド/支出)は、最も取得しやすい指標の一つなので、簡易的に分析するためには調達金額で十分ですが、実際には、調達額が少なくても自社事業にインパクトを与えるモノ(例えば、香料や添加物)を考慮しなければなりません。

Kraljicマトリックスでは、第Ⅱ象限が買い手として最も有利であるとされ、それぞれの象限でそれぞれの環境を考慮したカテゴリ戦略を策定する必要があるとされます。
カテゴリ戦略の策定
以上のカテゴリ分析からカテゴリ戦略を策定していきます。私は、カテゴリ戦略策定は、Stay or Move 戦略と思っています。Kraljicマトリックスの例を用いると、例えば、現在の当該アイテムの調達状況が第Ⅲ象限(Bottleneck)に属しているとすると、将来的にBottleneckに留まりたいのか(Stay)、Leverageなどの別象限に移動したいのか(Move)を決め、その施策を考えていくことになります。
例えば、サプライヤパワーが強いマーケットの製品を調達しているとした場合、敢えて業界トップのサプライヤを選ばず中小規模のサプライヤを選定して、関係性を育てていくことで、サプライヤパワーを減じ、自社のボリュームを相対的に大きくすることができ、第Ⅱ象限(Leverage)に移動することが出来ます(第Ⅲ象限→第Ⅱ象限)。その他の代表的なMove戦略としては、
- 長期契約を結ぶことで、買い手のボリューム規模を時間軸で大きくする
- 購買の窓口を統一し、社内に分散している購買を集約化する
- 様々なサプライヤへの個別発注を、商社を挟み、集約化する
などです。
「Stay」か「Move」かは、会社の事業戦略や会社のポリシーと密接に連携します。例として、チェーンの寿司レストランをイメージしてみます。イクラの軍艦巻きを提供しており、イクラを調達しています。チェーンAでは、イクラの軍艦巻きにこだわりがあり、良いイクラが入荷できなければ提供しないポリシーがあるとします。チェーンBでは、イクラの軍艦巻きを主力としていないため、イクラが入荷できなくても代替品(とびっこの軍艦巻きなど)で提供可能とします。
チェーンAでは、イクラは重要調達品となりますので、本部で集中的に調達し、高いレベルでQCD管理を行う方が有利と判断され、第Ⅱ象限(Leverage)を目指す戦略を取る可能性が高いと思われます。一方で、チェーンBでは、本部調達として一括調達し、各店舗への配算の手間を考えると、むしろ地産地消的にそれぞれの地域でイクラを調達し、入手困難な時は現場で代替品(とびっこなど)に切り替える柔軟な運用が好まれる可能性があります。この場合は、第Ⅲ象限(Non-Critical)を目指すことになります。
その他にも、大手の製造業なのでは、コア部品を本社の集中調達とし、付属品を工場ごとの分散購買とする事例など、同等の事例は存在し、それぞれどの象限で取引をしたいのかを考えることになります。このようにカテゴリ戦略は事業の方向性と必ずアラインしなければなりません。
ここまでて、カテゴリマネジメントのカテゴリ戦略策定部分を見てきましたが、実際のカテゴリ戦略策定は、調達している製品/サービスが置かれている状況や、個別の状況に依存するため、個々に検討していく必要があります。カテゴリ戦略策定において、お悩みがございましたら、当社までご相談いただけますと幸いです。

